始まりは、瓦屋根の残る「1坪」の空間から

沼津の街を歩いていると、ふと目を引く小さな佇まい。
「Swing Coffee Stand」の店舗スペースは、1坪という驚きの小ささです。
「小さいことだけが取りえなんですよ」と、オーナーの石井大さんはにこやかにお話ししてくれました。
もともとお茶屋さんだったというこの建物。お茶を使ったソフトクリームを販売するために増築されたというこのスペースは、石井さんの妹さんが近くでパン屋さんを営んでいたこともあり、昔から馴染みのある場所だったのだとか。


沼津市民文化センターのほど近く、瓦屋根の佇まいがどこか懐かしい、街で一番小さなコーヒー屋さん「Swing Coffee Stand(スウィングコーヒースタンド)」。
2016年5月20日にオープンしたこのお店。
わずか「1坪」という極小の空間から、今日も街の人々へ香り豊かな極上の1杯が手渡されています。
今回は、オーナーの石井さんが紡ぐコーヒーの魅力と、これまでの歩みをじっくりとお届けしていきます。

沼津の街を歩いていると、ふと目を引く小さな佇まい。
「Swing Coffee Stand」の店舗スペースは、1坪という驚きの小ささです。
「小さいことだけが取りえなんですよ」と、オーナーの石井大さんはにこやかにお話ししてくれました。
もともとお茶屋さんだったというこの建物。お茶を使ったソフトクリームを販売するために増築されたというこのスペースは、石井さんの妹さんが近くでパン屋さんを営んでいたこともあり、昔から馴染みのある場所だったのだとか。

今でこそ、沼津のコーヒーシーンを牽引する存在の一人である石井さんですが、かつては全く違う世界に身を置いていました。
石井さんの前職は、空調機メーカーの下請け会社に勤めるサラリーマン。
生産管理や営業に携わり、日々数字を管理する毎日でした。
「当時は、エンドユーザーが見えないもどかしさがありました。まるで数字のゲームをしているようで、自分自身が何か見えない大きなものに動かされているような、そんな感覚でした」と振り返ります。
転機となったのは、東日本大震災。
当たり前だった日常の脆さに触れたとき、自分の中で「もっと生活に近い仕事がしたい」という思いが、芽生えていきました。
妹さんがパン屋さんを営んでいたり、周囲の友人が個人事業主としてスモールビジネスをしていたりすることもあって、彼らの生き方に刺激を受けたといいます。
「自分にとって、生活の一部って何だろう?」
そう自問自答したとき、浮かんだのが毎日欠かさず飲んでいた「コーヒー」でした。

カナダでのワーキングホリデーの経験もある石井さん。
1年間、語学学校に通いながら、大好きなスケートボードに明け暮れる日々。
Do It Yourself!
「ないものは、自分の手で作ればいい」というマインドは、カナダ時代に刻み込まれました。
だからこそ1坪の店を自分で演出し、当時はまだ沼津に普及していなかった「スペシャルティコーヒー」というジャンルで勝負をかけることも、石井さんにとっては自然な挑戦だったのです。
スケートボードの板を活用して作られた椅子も、いい味 出しています。

石井さんがお店をオープンした2016年当時。
東京では2010年頃から「サードウェーブ」の波が押し寄せ、豆の個性を愉しむスペシャルティコーヒーが定着しつつありましたが、沼津ではまだまだその文化は浸透していませんでした。
「美味しいスペシャルティコーヒーを、もっと気軽に日常の中で飲んでほしい」
Swing Coffee Standでは
常時5〜6種類のシングルオリジンを揃え、丁寧にドリップして提供しています。
エスプレッソなどを使ったアレンジ系のコーヒーや、季節のメニューも取り揃えています。
暑い季節には、すっきりと喉を潤す「水出しアイスコーヒー」や、贅沢な味わいの「ミルクブリュー」、
秋から冬にかけては、体を芯から温めてくれるメニューへと移り変わる。四季の移ろいに寄り添うラインナップです。

取材時、石井さんが淹れてくれたのは「グァテマラ ゲイシャ」。
一般的なコーヒーの木よりも大きく育つが実がなる数は少ないゲイシャ種は、その香味が飛び抜けて素晴らしいのが特徴です。
コーヒーが熱いうちは、まるでお茶のように感じました。
それが少しずつ冷めてくると、紅茶のような華やかなニュアンスになって、その変化も楽しめました。
「季節が夏に向かうと、深煎りのコーヒーは少し重く感じられることもあります。だからこそ、その時の気候や体調に合わせて、豆が持つ本来の果実味や爽やかさを楽しんでほしい」と石井さん。
本当に奥深いです、コーヒー。

石井さんが大切にしているのは、コーヒーを特別なものではなく、あくまで「生活の一部」として届けること。
「会社員時代は、カフェインを摂取して活力を得るためにコンビニのコーヒーなどを飲むこともあった。でも、せっかく毎日飲むものなら、やっぱり美味しいものを飲んでほしい」
石井さんは、ある映画のワンシーンを例に挙げます。
「映画『おくりびと』の中で、登場人物たちがどんな状況でも淡々とご飯を食べ続けるシーンがあるんです。その中の台詞で『生きるには食べるしかない。どうせ食べるなら美味しい方が良い』とある。僕のやっていることは、言ってみればその『コーヒー版』なんです。日々の活力にコーヒーは必要だし、どうせ飲むなら美味しい方が良い。特別な日じゃなくていい。日常の中で、ただ淡々と美味しいコーヒーを淹れ続けられたら」

店名の「Swing」には、音楽好き・ジャズ好きな石井さんらしい意味が込められていますが、実はもう一つ、素敵なダブルミーニングがあります。
それは、「Swing by」
「どこかへ行く途中でちょっと立ち寄る」「顔を出す」という意味。
ここ10年で、沼津の街にはコーヒーショップがたくさん増えました。
石井さんは「新しくできたお店もそれぞれ全然違う個性があって、みんなが好きなことをしている。お店同士で行き来したり、情報交換をしたり、すごく良い刺激をもらっています。沼津の人って、みんな良い意味で好き勝手やっていて、自由なんですよね(笑)」と。
自由で、個性的で、お互いを認め合う沼津の街。
その心地よい空気感の中に、石井さんの1坪のスタンドは佇んでいます。
自分が自分らしくいられる場所で、大好きなコーヒースタンドを継続していくこと。
そして、これを「一生ものの仕事」としてずっと続けていくこと。
石井さんの眼差しは、10年目を迎えた今も、まっすぐに未来を見据えています。
今日の散歩の途中に、あるいは仕事の合間に。
あなたも沼津の街で、心地よいコーヒーの香りに誘われて、ちょっと「スイングバイ」してみませんか?

Swing Coffee Stand(スウィングコーヒースタンド)
住所:静岡県沼津市御幸町19-5
営業時間:11:00~18:00
定休日:月曜日、第3火曜日
駐車場:あり
アクセス:沼津駅より東海バス「外原中」行に乗車(乗車時間約5分)、「市役所南」バス停下車、徒歩すぐ
静岡県函南町出身。「沼津経済新聞」で地元情報を取材し、地元コミュニティーFMのラジオパーソナリティを務める。興味あるジャンルは、地場産のおいしいものとクラフトビール。伊豆半島の隠れた魅力を発信していきます。
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