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静岡県伊豆市修善寺にある「民藝 麦わらの店 晨 〜あした〜」は、江戸時代の伝統工芸「麦わら細工」を購入・体験のできる場所。
77年前、初代・辻晨吾さんが自ら建てたという工房では現在、2代目である奥さまの紀子さんと、3代目である娘の享子さんの二人が、その技術を受け継ぎ作品づくりに励んでいる。
あまり聞き馴染みのない「麦わら細工」だが、フィンランドの伝統飾り「ヒンメリ」といえば、ピンとくる人もいるのではないだろうか。
そもそも日本における「麦わら細工」とは、江戸時代中期から伝わった技術で、東海道五十三次を旅した際のお土産品として、全国各地に広まった。
当時は職人も多く、歌川広重などの浮世絵にも描かれるほどのブームだったという。
現在、その技術の担い手はほとんどおらず、職人は激減、技の保存が危ぶまれている状態だ。
そんななか「民藝 麦わらの店 晨 〜あした〜」では、昔から変わらず自ら大麦を栽培・収穫し、いくつもの工程を経て作品として仕上げている。
カメなどの生きものをモチーフにした置きものや小物入れも人気があるという。
「麦わら細工」は「編み細工」と「張り細工」、そして日本独自の「大森細工」という編み技に分かれる。
「大森細工」ができるのは現在世界で、辻紀子さん・享子さんのふたりだけ。
表面の編み目をひし形に美しく揃えることで、丸みのあるシェイプがつくれる。
現代的な住宅にも馴染む、スタイリッシュな作品がつくれるのも、その技術があってこそだ。
「編み細工」で代表的な作品は、当時、ホタルなどの虫かごとして使われていたことに由来する"ほたるかご”。
現在では、ドライフラワーを飾ったり、LEDライトを仕込んだ照明にしたりすることも。
麦わらのあたたかな素材感が、部屋の雰囲気を一気に格上げしてくれそうだ。
写真の左側と右側のものは「麦結び」と呼ばれるもの。
カラフルに染め上げた麦わらを編み込んでいくもので、ピアス・イヤリングといったアクセサリーとして、ネット販売でも好評な作品だという。
成人式の晴れ着や浴衣着のアクセントにもぴったりだ。
見た目には麦わらをつかっているとは分からず驚くのが「張り細工」。
まさしくストロー状の麦を割いて平たく伸ばし、桐箱といった平面状のものに貼り付けていく。
麦わらの油分により光沢が生まれ、それが経年変化や手脂によって、どんどん味が出てくるという。
上の写真は100年前につくられたもので、その下の写真は2023年新たに作成したもの。
家族で代々受け継いでいきたい"育てる"作品である。
享子さんは、麦わら細工職人である母・紀子さんから技術を習得中なのだという。
伝統技術の存続に危機感を感じつつも、その保存や伝承に悩んでいたという。
そこで背中を押してくれたのは、ウクライナのある職人だった。
「お米文化である日本と違い、海外は麦文化。麦を育てるということ自体生活に根付いておらず、海外の方が麦細工は発展しています。そんなとき技術交流で出会ったウクライナの麦細工職人から、『こんなすばらしい技術は、絶対にここで絶やしてはいけない』と言われました。まさか海外の方に認めてもらえるなんて。この言葉から、母の技術を受け継ぐことを決意したんです」。
花言葉は"富・裕福・希望・繁栄"で、食べてよし・飾ってよしとされている麦。
辻さん宅でも収穫した麦の一部は麦茶にして、植物の恵みをまるごといただいるという。
今後は江戸時代の活気を取り戻すべく、国指定の伝統的工芸品の認定を目指し、修善寺から日本のみならず、海外へ発信していきたいそうだ。
「民藝 麦わらの店 晨〜あした〜」の作品は直接工房で買えるほか、ネットでも購入可能。
また、技術体験のワークショップも定期的に開催している。
動物やリース、ほたるかごなど、作品により異なるが、所要時間20分〜税込1000円〜。
夏休みには、子どもたちでにぎわうという。
要予約のため、詳しくはホームページへ。
DATA
民藝 麦わらの店 晨 〜あした〜
住所:静岡県伊豆市修善寺806-1
営業時間:10:30〜16:00
休業日:不定休
HP:https://mugiwaraw001.wixsite.com/mysite
アクセス:修善寺駅より、東海バス「修善寺温泉」行に乗車(乗車時間7分)、終点「修善寺温泉」バス停より徒歩約1分
生まれも育ちも静岡県静岡市。同市の広告出版会社で、地元女性向けフリーマガジン&ウェブの編集長などを経験。約12年勤務ののち、2022年にフリーランスとして活動スタート。地酒や地場食材など、そこにしかない逸品探しに余念なし。未だ見ぬ静岡の魅力を、わかりやすい言葉でお伝えします。
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