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【韮山反射炉】世界遺産に登録された、国内で唯一現存する稼働した反射炉

2022/04/01
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Akari Enomoto中伊豆伊豆の国市
【韮山反射炉】世界遺産に登録された、国内で唯一現存する稼働した反射炉

静岡県伊豆の国市にある「韮山反射炉」(にらやまはんしゃろ)は、実際に稼働していた反射炉として国内で唯一ほぼ完全な形で現存する。2015(平成27)年には「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」の構成資産として世界遺産に登録されている。

反射炉とは鉄を溶かし、大砲を作るための溶解炉だ。近世の反射炉としては、同じく「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」の構成資産として登録されている、山口県萩市の「萩反射炉」(はぎはんしゃろ)も現存するのだが、試験的に操業され溶解実験が行われていたという記録が残っており、試作的に築造されたと考えられている。“実際に稼働した”という点において「韮山反射炉」は国内唯一の反射炉なのだ。

「韮山反射炉」は江川太郎左衛門英龍の建言によって築造が始まった

「韮山反射炉」は江川太郎左衛門英龍の建言によって築造が始まった

江戸時代末期、1840(天保11)年のアヘン戦争を機に、日本の防衛力に危機感を覚えた韮山代官・江川太郎左衛門英龍(えがわたろうざえもんひでたつ)。海防の主力と考えられていたのは大砲であったが、当時の大砲は踏鞴(たたら)で鋳造できる青銅砲だったため威力が小さかった。そこで、青銅砲より強力で安価な鉄製砲を鋳造するため、大量の鉄を溶かすことができる反射炉の計画が持ち上がる。最初は下田で着工したものの、1854(安政元)年、ペリーが下田に来航。韮山での築造に変更になった。

残念ながら英龍はその完成を見ることなく死去。英龍のもとに集った家臣たちの支えもあり、1857(安政4)年に息子の英敏(ひでとし)が完成させた。
当時の人たちはオランダ語で書かれた書物を読み解き、幾度となく災害に見舞われながらも、試行錯誤を重ね、この「韮山反射炉」をつくり上げた。細かい技術面だけでなく、なんとしても造り上げるんだという、その意志の強さは計り知れないものだ。

 

韮山反射炉 江川太郎左衛門英龍の銅像

大きな功績を残した英龍には、坦庵(たんなん)という号(本名のほかに使っていた名前)があり、今でも地元の人たちに「たんなんさん」と親しまれている。国内のほとんどの反射炉は、時代の変化とともに取り壊されてしまっているが、「韮山反射炉」は地元住民たちが「たんなんさんが残したものだから」と保存に努めた。何度も補修も重ね、今も伊豆の国市に象徴的な存在として遺されている。

「韮山反射炉ガイダンスセンター」迫力ある3D映像で学ぶ

「韮山反射炉ガイダンスセンター」迫力ある3D映像で学ぶ

韮山反射炉 ガイダンスセンター 内観

韮山反射炉 ガイダンスセンター 内観②

韮山反射炉ガイダンスセンターでは、韮山反射炉の築造当時の時代背景や成り立ちについて、そして現在までの保存の取り組みについて学ぶことができる。10分程度のガイダンス映像や遺物の展示等、多数の資料もあり、かなり凝った施設となっている。

韮山反射炉ガイダンスセンターの見学時間は映像鑑賞を含めても約30分を予定すればよいだろう。韮山反射炉の構造を立体的に見られる映像は子どもにもわかりやすく、楽しみながら学ぶことができる。訪れることで反射炉への知識を深められ、史跡内部の見学もより一層楽しめる資料館になっている。(写真提供:伊豆の国市)

歴史ガイドが無料で史跡案内をしてくれる

歴史ガイドが無料で史跡案内をしてくれる

韮山反射炉 史跡内部 

韮山反射炉は史跡の内部を見学することができるとても貴重な史跡だ。遠くから眺めるだけでは見ることができない内部の細かな造りをじっくりと観察しよう。

また、「韮山反射炉ガイド」を設けており、ガイドの方が約20分間、史跡内を案内してくれる。しかも、なんと無料なのも嬉しいポイントだ。当日、空きがあればガイドしてもらえるが、確実にガイドしてもらいたい人は事前予約をしておくことをおすすめする。(写真提供:伊豆の国市)

2020年・2021年にも修復工事を実施

2020年・2021年にも修復工事を実施

韮山反射炉は1985(昭和60)年から3年間に渡る保存修理工事を最後に、大規模な補修工事が行われておらず、築造以後、長年雨風にさらされた煙突外部のレンガの劣化や鋼材の塗装に剥離や亀裂などが確認されていた。
そのため、緊急的な措置として、2020(令和2)年10月から、約1年かけて補修工事を実施。機械による計測とともに、1枚1枚レンガを目視で確認し、レンガの状態に適した補修を実施した。

今回の補修工事は既に終了し、以前とは少し異なる韮山反射炉の姿を見ることができる。今も多くの人の技術によって韮山反射炉が守られていることを、改めて実感した。

「富士山」と「韮山反射炉」と2つの世界遺産を見ることができる

「富士山」と「韮山反射炉」と2つの世界遺産を見ることができる

静岡県の世界遺産といえば富士山だ。実は、伊豆の国市では韮山反射炉と富士山と、2つの世界遺産を望むことができる。韮山反射炉の近くにある展望台へ上がると、写真のようなアングルで2つの世界遺産を写真に収めることができる。韮山反射炉に圧倒されて、ついついそちらに目を奪われてしまうが、天気が良い日にはこちらの展望台にも足を運ぼう。ダブル世界遺産というご利益のある写真撮影に、ぜひ挑戦してほしい。(写真提供:伊豆の国市)

 

韮山反射炉 桜

桜の季節もおすすめだ。

韮山反射炉の基本情報

韮山反射炉ガイダンスセンター(韮山反射炉)
住所:静岡県伊豆の国市中260-1

アクセス:伊豆箱根鉄道 伊豆長岡駅より徒歩約30分

TEL:055-949-3450
URL: https://www.city.izunokuni.shizuoka.jp/bunka_bunkazai/manabi/bunkazai/hansyaro/

 

 

 

この記事を書いた人

Akari Enomoto

河津町在住。「Izu Letters」編集担当。大の猫好き。趣味は伊豆のオシャレなカフェめぐりと言いたいところだが、休日はだいたいお昼まで寝ている。最近、早起きをして行ったカフェは、伊豆高原にある「ねこカフェ にゃおん」。

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