【カネサ鰹節商店 芹沢安久さん】創業から140年。伝統ある手火山式焙乾製法を受け継ぐ(後編)
2022/05/27
Akari Enomoto西伊豆西伊豆町
静岡県西伊豆町に、芹沢安久(せりざわやすひさ)さんが営む「カネサ鰹節商店(カネサかつおぶししょうてん)」がある。 創業から140年の歴史あるカツオ節店で、芹沢さんはその5代目。 創業当時から受け継ぐ製法でつくっており、西伊豆町の郷土品「潮鰹(しおかつお)」やカツオ節の中でも最も時間と手間をかけてつくられる「本枯れ(ほんかれ)のカツオ節」を製造している。
また、「潮鰹」を使った西伊豆を代表するご当地グルメ「西伊豆しおかつおうどん」は、芹沢さんが会長を務める「西伊豆しおかつお研究会」によって考案されたもの。 芹沢さんは「潮鰹」を通じて、西伊豆、そして伊豆地域全体を元気にする活動も行っている方だ。
カツオ節より前に製造されていた潮鰹
カツオ節の製造方法などが確立されたのは、今から約360年前と比較的新しい。それ以前につくられていたのは、カツオの素干しやカツオを塩漬けし乾燥させた塩蔵品などだ。
塩には保存の力があり、腐敗を防止する効果がある。塩分濃度を高くすることによって常温でも2、3カ月保存できるのだ。
一番原始的な保存法は天日干しだが、雨が降れば乾かずに濡れてしまうし、外気温が高いと痛みやすくなるなど、天候に左右されやすい。
日本は高温多湿で梅雨があること、また、魚が捕れたとき天気が良い日が続くとも限らないことからこの方法がとられていた。
潮鰹は西伊豆町で縁起物として古くから存在していた
西伊豆町には、お正月に藁(わら)で装飾し、神棚に吊るし飾ったり、玄関に門松代わりに吊るし飾ったりする風習がある。農家がお米の奉納祭をするように、今年捕れたカツオでつくった潮鰹を飾り、翌年の繁栄を神様に祈ってつくられているのだ。
藁にも「手火山式焙乾製法」と同様、その年に地元で採れたお米のついた藁を使うという決まりがある。お米は、1つの稲(種)からたくさんのお米が実り、その様子が神秘的であること、また、日や水など自然の恵みが1つでも欠けると栽培できない。
このことから、神聖なものと考えられており、その土地のパワーをすべて吸収した藁を使って飾ることで潮鰹が清められ、供物(くもつ)となると考えられていた。
他の地域では、塩分が多いため食べ物としては成立しなくなってしまった潮鰹だが、西伊豆町では今でも神事として残り、受け継ぐことができたのだ。
潮鰹を存続させるためにご当地グルメ「西伊豆しおかつおうどん」を開発
近年では、潮鰹を使った「しおかつおうどん」がご当地グルメとして広まったが、15年ほど前は製造を続けられないほど低迷していたという。減塩風潮が広まり、「潮鰹は塩分濃度が高く、体に悪い」「しょっぱくて食べられない」という印象から、購入する人が年々減少していったのだ。
「次第に、潮鰹自体を知らない人が増えていく。どうにか伝統ある潮鰹を残していけないか」。そう考えた芹沢さんは、2008(平成20)年に現在の「西伊豆しおかつお研究会」の前身「しおかつおの会(仮名)」を立ち上げた。
自分たちの財産である潮鰹を使うことで、西伊豆町、そして伊豆半島を元気にするために、ご当地グルメやお土産にできないかと考えたのだ。
潮鰹が衰退していった要因の一つとして「食べ方がわからない」ということがある。そこで現代風なアレンジとして潮鰹を粉末状にして、ふりかけにすることを考案。お茶漬けとしての食べ方を提案した。
しかし、潮鰹はもともと神事に使われていたもの。それを加工することは、信心深い人からの反感をかったという。
「潮鰹を残したいという思いは同じなのに、なぜ反対されるのかと悔しかったです。形を変えても、本当に残していきたいものは潮鰹なのだと理解してもらわねばと思いました。」と話す。
その後、西伊豆町の風景と、カツオの歴史をコンセプトにした「西伊豆しおかつおうどん」を考案。
潮鰹でダシをとり、本枯れのカツオ節や、カツオをボイルした生節(なまりぶし)、そして夕日をイメージした温泉卵をトッピングした。この温泉卵は、松崎町の三浦温泉(さんぽおんせん)でつくっているものだ。
最初はまったく売れなかったが、根気強くイベントに参加し続けることで少しずつ認知度を上げていった。
そして、2017(平成29)年に富士市で開催された「ご当地グルメでまちおこしの祭典!B-1グランプリ」で、ついにゴールドグランプリを受賞。これにより知名度を大きく上げ、それまでの約10倍の生産量に。潮鰹を存続できる兆しを見せた。
今では、イベントだけでなく、町の幼稚園、小学校や中学校で潮鰹を使った課外授業も行っており、学校給食では、子ども達と一緒に「西伊豆しおかつおうどん」を食べる時間を設けてもらうなど、子どもたちの地域愛を育む取り組みも行っている。
本枯れのカツオ節の活用方法を模索中
こうして潮鰹は危機を脱したのだが、本枯れのカツオ節の方は、まだまだ危機的な状況にある。削り節器でカツオ節を削った経験がある人はかなり少ないだろう。
手間もかかり、器具もないため、どうしてもパック詰めされたカツオ節を使う人が多いのだ。
「最もクオリティが高い本枯れのカツオ節がなくなってしまわないよう、現代のニーズに合わせた商品づくりをし、残していく方法を模索していく必要があります。また、本枯れのカツオ節の使い方を伝えていくために、カネサ鰹節商店の工場見学や、カツオ節の削り方、だしの取り方などを体験してもらえるような施設にし、身近に感じてもらうきっかけを提供していきたいです。」と語る。
究極の保存食であるカツオ節を、いつか宇宙食にしたい!
芹沢さんがお店を継いだ当時からの夢は、「究極の保存食である宇宙食にすること」だそうだ。
「本枯れのカツオ節」は麹菌が保護膜となり、約2年~3年の間美味しく食べる事ができる。仮に麹菌が落ちなければ(麹菌がカツオ節に付着した状態を持続できれば)半永久的に保存が効くと言われているほど。
「保存食というバックグラウンドを受け継ぎながら、次世代に残していけるのではないかと考えています。宇宙食への実現化に向け、まずは厳しい環境下でも食べられる備蓄食として西伊豆町の防災食を目指したいです。」と熱く語る。
「自分にとってカツオ節は、自分を大きくしてくれた大切な存在です。潮鰹のふりかけや『西伊豆しおかつおうどん』といった商品開発をしたり、B-1グランプリなどのイベントに参加したり、幼稚園や学校で課外授業をさせてもらったりと、カツオ節や潮鰹のおかげでさまざまな人たちと繋がり、貴重な経験をさせてもらっています。」と話す。
その一方で、先代たちから受け継いだことをしっかりと守れているのかと悩むこともあるという。
「カツオ1匹1匹、身の固さや大きさが違うので、製法を変えていないからといって同じ味になるとは限りません。お客さまから『昔と変わらない味でおいしいね』と言ってもらえたときは、自分たちの味を守ることができていると再認識でき、よかったと胸をなでおろせます。今後も変わらぬ製法を守り続け、西伊豆町、そして伊豆半島へ貢献できる取り組みを続けていき、子どもたちが自分の生まれ育った町で生活し続けられるように貢献していきたいです。」と話す。
宇宙食と聞いたときはなんて大きな夢なんだと驚いたが、逆境の「潮鰹」を立て直した芹沢さんなら、この大きな夢を夢で終わらせないはずだ。今後の芹沢さんの活躍に注目したい。
カネサ鰹節商店の基本情報
カネサ鰹節商店(カネサかつおぶししょうてん)
住所:静岡県賀茂郡西伊豆町田子600-1
TEL:0558-53-0016
FAX:0558-53-0044
E-mail:kanesa@katsubushi.com
URL:https://katsubushi.com/
この記事を書いた人
河津町在住。「Izu Letters」編集担当。大の猫好き。趣味は伊豆のオシャレなカフェめぐりと言いたいところだが、休日はだいたいお昼まで寝ている。最近、早起きをして行ったカフェは、伊豆高原にある「ねこカフェ にゃおん」。
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静岡県西伊豆町にある「カネサ鰹節商店(カネサかつおぶししょうてん)」は、創業から140年の歴史あるカツオ節店。5代目の芹沢安久さんが営み、創業当時から受け継ぐ製法で作られる西伊豆町の郷土品「潮鰹(しおかつお)」やカツオ節の中でも最も時間と手間をかけて作られる「本枯れ(ほんかれ)のカツオ節」を製造している。