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【カネサ鰹節商店 芹沢安久さん】創業から140年。伝統ある手火山式焙乾製法を受け継ぐ(前編)

2022/05/27
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Akari Enomoto西伊豆西伊豆町
【カネサ鰹節商店 芹沢安久さん】創業から140年。伝統ある手火山式焙乾製法を受け継ぐ(前編)

静岡県西伊豆町に、芹沢安久(せりざわやすひさ)さんが営む「カネサ鰹節商店(カネサかつおぶししょうてん)」がある。 創業から140年の歴史あるカツオ節店で、芹沢さんはその5代目。 創業当時から受け継ぐ製法でつくっており、西伊豆町の郷土品「潮鰹(しおかつお)」やカツオ節の中でも最も時間と手間をかけてつくられる「本枯れ(ほんかれ)のカツオ節」を製造している。

 

また、「潮鰹」を使った西伊豆を代表するご当地グルメ「西伊豆しおかつおうどん」は、芹沢さんが会長を務める「西伊豆しおかつお研究会」によって考案されたもの。 芹沢さんは「潮鰹」を通じて、西伊豆、そして伊豆地域全体を元気にする活動も行っている方だ。

 

 

 
 

もっとも古い製法「手火山式焙乾製法」でつくる

もっとも古い製法「手火山式焙乾製法」でつくる

「カネサ鰹節商店」では、創業当時から変わらない「手火山式焙乾製法(てびやましきばいかんせいほう)」でつくっている。
強火で表面を焼き固め、カツオのうまみを閉じ込める方法で、いくつかある焙乾製法のなかでもっとも古いものになるのだ。

 

カネサ鰹節商店 セイロ

手火山式焙乾製法では、セイロ(木枠の容器)に乗せたカツオをかまどの上に乗せ、下から薪をくべて燃やして燻(いぶ)し乾かしていく。
火とカツオまでの高さが低いと焦げてしまうので、かまどの下は2mほどの穴が掘られている。燃やしている間は火の管理、調節のため、8時間近くかまどのそばを離れることができない。職人への負担がとても大きい製法なのだ。

 

それでも手火山式焙乾製法を行う理由は、「自分たちの作るカツオ節の味を守っていくため。他の製法だと味やおいしさが全く変わってしまう」だそうだ。

 

カネサ鰹節商店

また、手火山式焙乾製法は、燻す際の匂いや真っ黒な煙があがるため、民家が近いと近隣トラブルの原因になってしまうことも。

そのため、現在では焙乾専用の建物内で乾燥させる「急造庫」(スモークハウス)製法が主流となっている。

手火山式焙乾製法で本枯れの鰹節を製法しているのは全国で5、6軒しかない。

そのうちの4軒は、ここ西伊豆町にある。
「昔は、田子地区に40軒あった手火山造りの田子節の製造店舗は、時代とともになくなってしまいました。このままですと、伝統製法が途絶えてしまいます。にぎやかだった昔を思い起こすととても寂しく思います。」と話す芹沢さんが印象的だった。

地元の薪を使うのが「手火山式焙乾製法」の決まり

手火山式焙乾製法には、地元の薪(まき)を使うという決まりがある。
この決まりによって自然の循環が守られるのだ。
その1つが山。薪を得るために山の木を切ることで間伐の役目を果たし、山が手入れされるのだ。
そしてもう1つが海。山の木々が保たれることで土砂災害の防止となり、地域住人を守るとともに海の汚れを防ぎ、海の生態系が守られてきた。
先人たちは、山と自分たちの暮らしが繋がっていることを常に考えていたのだ。

 

カネサ鰹節商店 地元の薪

また、燻しといえばサクラの木というイメージを持つ人も多いかもしれないが、サクラの木だけでは香りが強いため、カツオの香りを損ねてしまう。
カツオ節本来の香りが薄れてしまわないよう、「カネサ鰹節商店」では、伊豆産原木のナラ、クヌギ、サクラなどをブレンド。
伊豆の薪を使うという決まりによって、他の地域のカツオ節とは異なる香りになるのだ。
芹沢さんは「昔からの製法を守ってつくることで、他の地域では出せない味や香りになると思っている。なるべく昔からの製法を変えないようにつくっていきたい」と話す。

職人が手作業で下ごしらえすることで、品質がよいものができる

職人が手作業で下ごしらえすることで、品質がよいものができる

カツオ節は、カツオを解凍し、頭や背びれ、内蔵を切ることからはじまる。
頭は頭切り包丁、背びれは馬蹄包丁(ばていぼうちょう)など、部位ごとにさまざまな包丁を使い分けていく。

 

カネサ鰹節商店 包丁

その後、煮崩れしないようにカゴに並べて、釜で煮込んでいく。
煮込むことで腐敗を止め、余分な臭みや苦みを出す。こうすることで、旨みだけを残すことができるのだ。

 

カネサ鰹節商店 骨抜き作業

煮込み終えたカツオを冷ましたから専用の骨抜きで1本ずつ骨を抜いていく。全て手作業なのだ。
骨抜きが終わると、“モミ”と呼ばれるパテ(=カツオを切る際に中骨についていた身を練ったもの)でキズや穴を埋めながら修繕作業を行う。
モミは、出来上がったときにもみがとれないよう、カツオ節の身の固さに合わせて同じ堅さのものをつくるのだ。
骨をきれいに抜かないと、完成したカツオ節が、変形したり骨が飛び出したりして、見た目もよくなく、舌触りによいものにならない。
また、骨を抜いたときにできた穴をそのままにしてしまうと、その部分から乾燥が進み、身が割れてしまうのだ。


すべて手作業でつくっているため、とても手間がかかる工程。
しかし、おいしく、美しいカツオ節をつくるためには、かかせない下準備なのだ。

何度も焙乾を繰り返し

何度も焙乾を繰り返し

下準備が終わったら、手火山式焙乾製法で燻していく。
先に高温または強い火で表面を焼き固めるため、カツオの中の水分が抜けにくい。
焙乾工程は、全部で約10回ほど行われる。
1番火は高温(150℃前後で)30分~50分程度焙乾を行い、2番火~10番火と徐々に火の温度を下げていく。火の温度が低くなるにつれて6~8時間の長い時間をかけて焙乾するのだ。
そして各焙乾後は、「あんじょう」という放熱工程を毎回行う。これを行うことで、カツオ節を1~3日ほど火のない部屋に放置し、水分を表面に出やすくするのだ。
素人からしてみると、本当に気が遠くなるような工程数だ。

 

カネサ鰹節商店 焙乾作業

その後、表面に液状の麹菌(こうじきん)をつけてスギやヒノキでできた樽に20〜30日間つける。
表面を焼き固める手火山式焙乾製法の火力のみでは、水分が抜けきらないため、麹菌の力も活用しているのだ。

 

カネサ鰹節商店

他の焙乾製法と違って燻した後、水分がカツオ節の中に残りやすいので、麹菌を使って発酵させ、カツオ節の中の水分を時間をかけて取り除いていく。
麹菌をつけたまま放置し続けると麹菌がカツオ節の内部に浸透してカビ臭いカツオ節になってしまうので、麹菌が中に浸透する前に天日干しして麹菌を調整(制御)していくのが難しいのだ。

 

手火山式の焙乾燥法はとても強い火力で焙乾するのでカツオ節の表面が固くなり水分が抜けにくくなる。
手火山以外の焙乾方法で作るカツオ節より水分がカツオ節の中に残りやすく、10回焙乾を終えたときに、他の製造方法で作ったカツオ節よりも水分量が多くなるのだ。
この残された水分を麹菌を使って熟成させながら吸い取っていく。
そして発酵しやすいように湿度や温度に気を配りながら、茶色く変色するのを待つ。

 

その後、カツオの状態を観察しながら、麹菌がカツオに浸透する前に天日干しをして麹菌が鰹節内に浸透しない様に天日干ししてカビを制御(調整・コントロール)していく。
乾燥したらまた麹菌をつけて発酵。
この天日干しという作業を6~8回以上繰り返す。
これらの工程を半年かけて行うことで、ようやく本枯れのカツオ節が完成するのだ。

 

カネサ鰹節商店 作業の様子

カネサ鰹節商店 骨抜き作業

 

 

カネサ鰹節商店の基本情報

カネサ鰹節商店(カネサかつおぶししょうてん)

住所:静岡県賀茂郡西伊豆町田子600-1

TEL:0558-53-0016

FAX:0558-53-0044

E-mail:kanesa@katsubushi.com

URL:https://katsubushi.com/

 

 

 

この記事を書いた人

Akari Enomoto

河津町在住。「Izu Letters」編集担当。大の猫好き。趣味は伊豆のオシャレなカフェめぐりと言いたいところだが、休日はだいたいお昼まで寝ている。最近、早起きをして行ったカフェは、伊豆高原にある「ねこカフェ にゃおん」。

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